直腸脱

直腸脱とは

肛門の手前、便が体外へと排出されるまで蓄えられている部分を「直腸」と言います。直腸の粘膜と筋層が、肛門の外へと脱出してしまった状態を「直腸脱」と呼びます。脱出する直腸の長さは数cm〜20cmとさまざまです。

主な原因は、肛門を締める筋肉である肛門括約筋が、加齢とともに緩んでいくことにあります。そのため、直腸脱はご高齢の方に多い病気で、子宮脱や膀胱脱を伴うこともあります。
また、排便時にいきむ(きばる)癖のある人も、その習慣を何十年と繰り返していることで、直腸が下がり、直腸脱が起こりやすくなります。
まれに先天的な原因で子どもに発症することもありますが、若年者の場合は自然治癒する可能性もあります。
一方で大人の場合、原則的には手術が必要になります。

手術法は大きく分けて、経肛門的手術(肛門からの手術)と経腹的手術(お腹からの手術)の2通りに分かれます。脱出する直腸の長さや、全身状態によって手術法が選択されます。

直腸脱の症状と分類

直腸脱は、その状態によって3つに分類することができます。 症状とあわせてご紹介いたします。

このような症状はありませんか?

  • 排便時に直腸が脱出する
  • 立つ・歩く時に直腸が脱出する
  • 常に直腸が脱出している
  • 直腸が脱出している時の痛み、出血
  • 便失禁、残尿感
  • 肛門の異物感
  • 腹部の張り、不快感
  • 膣からの骨盤臓器の脱出、子宮脱
完全直腸脱

直腸全体が、全周的に肛門の外へと脱出する状態。

不完全直腸脱

直腸の一部が、肛門の外へと脱出する状態。

不顕性直腸脱

直腸内で直腸の弛緩が認められるものの肛門の外には脱出しない状態。

女性や高齢者に多い?
直腸脱の原因

直腸脱の主な原因は、肛門を締める肛門括約筋の緩みです。
肛門括約筋は誰でも加齢とともに緩んでいくため、直腸脱の大きなリスクとして、「加齢」が挙げられます。
その他、排便時にいきむ習慣があり徐々に直腸が脱出していくケース、先天的に直腸が脱出しているケースなども存在します。また、出産による骨盤底筋の緩みも、直腸脱の発症に影響することが多いとされています。

直腸脱を放置?自分で戻せる?
放っておくとどうなる?

子どもの直腸脱については、自然治癒する場合があります。ただしその場合も必ず当院を受診し、医師の診断を受けるようにしてください。
一方、大人の直腸脱については、原則的に自然治癒することはありません。放置していると、以下のように症状が悪化する可能性があります。

  • 脱出する直腸が長くなる(20~30cm)
  • 痛みが悪化する
  • 出血がひどくなる
  • 便失禁が増える

さらに進行すると排便時以外にも常に直腸が脱出した状態となり、場合によっては腸が壊死して緊急手術が必要となったり、命に関わる状況に至る可能性もあります。
直腸脱が進行すると日常生活への影響が非常に大きくなります。
デリケートな疾患ではありますが、症状が悪化する前に当院にご相談ください。

直腸脱の手術・治療法

直腸脱の治療は、原則的に手術が必要になります。
特にご高齢の方の場合、全身麻酔を伴う開腹手術は侵襲が大きいため、当院では主に経肛門的(おしりから)に以下の術式を行います。
経腹的手術が必要である場合やご希望される場合につきましては、提携する病院へとご紹介させていただきます。
なお、Gant-三輪法とThiersch法、両方が必要になるケースと、片方のみで済むケースがあります。

Gant-三輪法(直腸脱絞り込み縫縮術)

腰椎麻酔(下半身麻酔)または局所麻酔をかけ、脱出する直腸の粘膜と筋層に、針と糸をかけて大豆大のコブを数十個(通常は20~30個)つくる手術です。直腸を肛門側にかけて徐々に狭くなるように、短くなるようにすることで、脱出が起こりにくくなります。
合成吸収糸という糸を使うため抜糸は不要で、糸は2~3週間で自然に脱落します。
侵襲が小さいため、術後の痛みもほとんどありませんが、排便時にいきむ習慣がついている方などには10~30%の割合で再発が認められます。
再発のリスクを下げるためにも、排便時にいきむ習慣は改善しましょう。

Thiersch法(肛門括約筋形成術)

内肛門括約筋と外肛門括約筋の間にシリコンチューブを埋め込み、肛門を取り囲むように締める手術です。加齢などによって弛緩した肛門括約筋を補強し、直腸脱が起こりにくくなります。
肛門の大きさは調整が可能であり、便秘がちの人はやや緩めに、反対に軟便の傾向がある人はややきつめに調整します。
当院ではこれまでの経験から、身体への馴染みが良く、伸縮性のあるシリコンチューブを厳選して使用しています。
シリコンチューブは感染・化膿を起こさない限り、生涯にわたって埋め込んだまま、快適に過ごすことが可能です。

直腸脱のよくあるご質問

排便の時だけ直腸が脱出します。
一度病院を受診しましたが、「様子を見ましょう」と言われました。
早く治した方がいいような気がするのですが、どうでしょうか。

排便時だけ脱出する、立つ・歩き時だけ脱出するといったケースも多いため、経過観察を指示されることもあります。
ただし、痛みや出血を伴う場合や、心理面での影響がある場合には、治療を急ぎたいという患者様のお気持ちも理解します。
スマートフォンで脱出した状態を撮影してお見せいただければ、診断ができますので、一度、当院にご相談ください。

直腸脱と子宮脱を合併しています。同時に治療をすることは可能ですか?

症例によって異なりますが、直腸脱と子宮脱を同時に治療することは可能です。直腸脱の手術には、腹腔鏡を使い、直腸を固定する「直腸固定術」という方法があります。その方法では、子宮も一緒に固定するため、直腸脱とともに子宮脱も改善することが期待できます。
ただし、当院では直腸固定術を採用しておりません。ご希望の場合には、直腸固定術に対応している病院をご紹介いたします。

手術を受ければ、便失禁などの症状も改善しますか?

はい、手術によって肛門括約筋が補強されるため、直腸脱に付随する症状(痛み・出血・便失禁)も改善することが期待できます。

高齢の家族が、歩いている時に直腸脱を起こすようです。
本人は受診に抵抗があるようなのですが、様子を見ていてもいいものでしょうか?

歩行時に直腸脱が起こるというケースでは、外出や人と会うことが億劫となり、引きこもりのような状態になってしまうことがあります。特にご高齢の方は、足腰の筋力低下、寝たきりへの進行なども心配されます。そのようなリスクもあることをお伝えし、できるだけ早く当院にご相談ください。
恥ずかしいという気持ちもあるかもしれませんが、心理面にも配慮した診療を行いますので、どうぞご安心ください。

脱出した直腸が、元に戻らなくなりました。どうすればいいでしょうか?

脱出した直腸を優しく握り、お腹の力を抜いた状態で、肛門へと軽く押し当ててください。この対応で、ほとんどが元に戻ります。その後、できるだけ早く受診してください。
どうしても戻らない、脱出した直腸から出血している・痛みが強い、直腸が黒ずんでいるといった場合には、緊急の対応が必要です。
すぐにご連絡の上、ご来院ください。夜間など診療時間外である場合には、救急外来を受診してください。

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